VOL.3 矢田堅四郎(やだ けんしろう)さん
「カナギ漁」この呼び名は、島根あるいは隠岐地方でしかわれ使われてないそうです。因みに三浦半島では「ミツキ漁」と呼ばれている刺突漁です。全国で様々な呼び方があります。
この道30年。知夫里島の代表的漁法、カナギ漁を生業としている矢田堅四郎さんにカナギ漁についてお話を伺いました。
カナギ漁と堅四郎さん
堅四郎さんがカナギを始めたのは35歳のころ。カナギ漁は技術職。その頃は、技は見て盗んで覚えろ、とでもいう風になかなかに進んで教えてくれる人はいませんでした。この村で一番うまい人に付いてまわったという堅四郎さん。その人だけは嫌がらずに教えてくれたといいます。
はじめは、かんこ船。手で船を漕ぐところから始まりました。
一年くらい無収入と覚悟してやらんと一人前にはならん。
やがて、資金補助をしてもらい、エンジンつきの船を手にいれます。漁師は金がかかる、と堅四郎さんは笑います。そしてそこから、さらにカナギ漁に勢が出てきます。
■カナギ漁
ヘリが浅い船に乗り、箱めがねで海をのぞく。覗きながらヤスで約20メートル先の獲物を捕る。
船に寝そべり、足で、船の前後を操縦。
右手は、レバーで船の左右の舵とりしながら、ヤスをもつ。
左手で、箱めがねを。
そして箱めがねの淵についている縄をしっかりと噛み、覗きながら海の底にある獲物を獲ります。ヤスの長さは、8メートルくらいから。深さに合わせて2本つなぎあわせたり。
20メートル先の点にしか見えない獲物。それを見定めて傷つけないように突いて獲るのが、漁師の腕の見せ所です。
カナギ漁で狙えるものは、なまこ、もずく、わかめ、にいな、そしてサザエ、アワビなど。季節に合わせて、獲れるものが変わります。
■ 夏のカナギ
目が悪くてもなんかおかしいなぁと思うとアワビ。わしら覚えとるの、その格好を。
アワビは7月の終わりから8月までがピークです。その時期は特に海の透明度が高い。尚且つ、藻が抜けて底のほうまでよく見える。深いところでたくさんとれるそうです。特に台風の後の凪の日は最高だそう。
一日にアワビを30キロくらいとった、今でも忘れない。と語る堅四郎さん。
37歳ごろ、知夫にはアワビ獲り名人が5人程おられたそうです。堅四郎さんはそのひとたちに負けないように、一生懸命でした。
その日は、朝からアワビだけを狙ったといいます。エンジン付きの船があったから、疲れなかったと堅四郎さんはいいます。
いっぱいとると楽しいだわ、やっとるときにああここにもいる!という感じだもの。
気分がいいぞぉ。と楽しげに教えてくれました。
■冬のカナギ
カナギ漁で大事なこと。朝一、まず、海の沖のほうをみて凪か時化か波の様子を見ます。
冬場だと危険なことも多いそうです。
朝は凪でも急に北風が吹いて天候が変わることがあるそう。そういう時は、船がとまるとひっくり返ってしまう。前も見えないし波をかぶってしまうこともあるんだそう。引き返すこともできずに一時間くらいどうしようもないときがあります 。
こりゃだめだなぁと思うことがあるけど、どうにか帰ってきた。
そんな日の帰りは、今日はこんなんで心臓が止まりそうだったと、家で自慢するそうです。
一年のうち何回かある命がけの日。カナギ漁をしている人だれもが、絶対何回かは経験しているといわれます。
それでも漁にでるのは、冬場の貴重な凪の日だから。
天気も不安定な冬は、一か月に2.3度、海に出れるといいほうだといいます。
■ 知夫と漁と
矢田堅四郎さんが、知夫里島を一言で表すと
「住みよいようで、案外住みにくい」
カナギ漁をはじめて30年。
好きでやっているんじゃないよ、食べていけるのはこれしかなかったんだ、と笑う堅四郎さん。けれどもしっかりと前を見つめ、波を見定める姿は、この道一筋。ほんまもんの背中です。
好きじゃないと続けられない技術がある。
きっと晴れた日の朝方、波止場にたって波を読む堅四郎さんの姿を見ることができることでしょう。
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